相続放棄の流れ・手続きについて

文責:弁護士 鳥光 翼

最終更新日:2024年04月12日

1 事前に知っておくべきこと

 相続放棄の準備を開始する前の問題として、相続放棄が認められなくなる行為が存在することを知っておく必要があります。

 相続放棄が認められなくなる行為をしてしまうと、せっかく相続放棄の手続きをしても、意味がなくなってしまいます。

 具体的なものとして、相続財産の処分、隠匿等があげられます。

 実務上特に問題となるものは、相続財産の処分です。

 相続財産の処分に該当する具体的な行為としては、被相続人の預貯金の使用(一部例外あり)や、土地・建物・自動車・その他動産の売却換価または廃棄、遺産分割協議等が挙げられます。

 これらの行為を行ってしまうと、相続放棄が認められなくなってしまう可能性があります。

 意図的でなくても、うっかりこれらのことをしてしまうというケースも多いため、しっかりと意識しておく必要があります。

2 相続放棄申述に必要な資料の収集

 相続放棄を行う際は、家庭裁判所に対して、相続放棄申述書のほか、様々な書類や資料を提出する必要があります。

 そして、これらは相続放棄をするご本人(申述人)または代理人が集めなければなりません。

 一般的には、次のようなものが必要です。

 

 ①被相続人の除籍(死亡の記載のある戸籍)

 ②被相続人の住民票除票または戸籍附票

 ③相続人の戸籍

 ④兄弟姉妹相続の場合、被相続人出生から死亡までの戸籍

 ⑤兄弟姉妹相続の場合、直系尊属の死亡の記載のある戸籍

 ⑥代襲相続の場合、被代襲相続人の死亡の記載のある戸籍

 ⑦被相続人死亡日と相続の開始を知った日が異なる場合、裏付けとなる資料

 

 被相続人の本籍地がわからない場合や、被相続人の最後の住所地がわからない場合、兄弟姉妹相続で被相続人の出生から死亡までの戸籍を集めなければならない場合には、上述の資料の収集には専門的な知識および相当な時間と手間を要することがありますので、専門家に相談することをお勧めします。

3 相続放棄申述書の作成

 必要な資料の収集が完了したら、相続放棄申述書という書類を作ります。

 相続放棄申述書は、家庭裁判所に対して相続放棄をする旨を申請する書類であり、被相続人の情報、申述人の情報、相続放棄をする理由等を記載します。

 被相続人の本籍地や最後の住所地を記載する必要があるので、2で述べた資料の収集後でないと記入できない項目もあります。

 家庭裁判所が相続放棄申述書のテンプレートを提供していますが、被相続人死亡日から3か月以上経過している場合は、相続の開始を知った日が被相続人死亡日より後である旨を詳しく説明・主張する必要があるため、テンプレートを用いずしっかりとした文書を作成するのが一般的です。

 そのような場合には、専門家へ作成を依頼した方が良いでしょう。

 

参考リンク:裁判所(相続の放棄の申述書(成人))

4 相続放棄申述書等を裁判所へ提出

 必要書類の収集を終え、相続放棄申述書を作成したら、これらを管轄の家庭裁判所へ提出します。

 相続放棄手続きの管轄の家庭裁判所は、被相続人の最後の住所地を管轄する裁判所です。

 被相続人の除票または戸籍附票に記載された住所地を元に、管轄の家庭裁判所を調査する必要があります。

 管轄の家庭裁判所が判明したら、家庭裁判所へ直接相続放棄申述書持ち込んで提出するか、または(特に遠方の過程裁判所の場合)郵送で提出します。

 相続放棄の期限が迫っている場合は、万一の場合に備え、直接持ち込んだ方が安全なこともあります。

5 質問状への回答

 相続放棄申述書を提出すると、しばらくした後に、家庭裁判所から質問状が送られてくることがあります。

 照会書兼回答書という名称の場合もあります。

 家庭裁判所が質問状を送る主な目的は、なりすましによる相続放棄申述ではないことの確認と、法定単純承認事由に該当する行為を行っていないかを確認することです。

 代理人が就いている場合、代理人に質問状が送付されることもありますし,家庭裁判所によっては代理人が就いている場合には質問状を送らないという運用をしていることもあります。

(補足しますと、相続放棄の代理人になれるのは弁護士のみです)

 質問状が送られてきた場合、期限までに回答を記載し、家庭裁判所へ返送する必要があります。

 被相続人死亡日から3か月以上経過している場合は、質問が多数なされることもありますので、慎重な回答が必要です。

6 相続放棄申述受理通知書の受取り

 裁判所により相続放棄が認められると,相続放棄申述受理通知書という書面が発行されます。

代理人が就いている場合,代理人宛てに送付されることもあります。

 これを受取ることで,対外的に相続放棄が完了したことになります。

 これは相続放棄をしたことを公的に証明できる書類ですので,後に被相続人の債権者に対して写しを示すことで,金銭の請求を止めることができるようになったりします。

7 (必要な場合)次順位相続人への連絡

 例えば,被相続人の全ての子の相続放棄が完了しますと,次順位の相続人である被相続人の親が相続人となります。

 次順位の相続人の相続放棄の期限は,先順位の相続人が相続放棄をし,自身が相続人となったことを知った日から3か月となります。

 そのため,相続人全員が確実に相続放棄をするためには,順次相続人になった旨を伝えておくことが望ましいです。

 弁護士から連絡をすることもできます。

 弁護士名で次順位相続人に対し,日付入りの書面を送ることで,次順位相続人の方が相続放棄をする際,「相続の開始を知った日」を疎明するための資料として使えます。

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