手続中・手続後の債権者対応

文責:弁護士 鳥光 翼

最終更新日:2024年04月14日

1 被相続人にお金を貸した相手から連絡が来た場合

 被相続人が借金等をしていた場合、貸金業者や債権回収業者、またはそれらの代理人から、相続人に対して書面や電話等で借金の返済を求める連絡が入ることがあります。

 通常、被相続人の債権者を名乗る者(いわゆる借金取り)とコンタクトをするのはとても怖いと思います。

 一方、電話に出ない、書面に返信しない、というのも手ではありますが、完全に無反応を決め込んでしまいますと債権者から裁判を起こされる可能性もあります。

 そこで、債権者に対して相続放棄の手続中である旨の一報だけすることの得策であるといえます。

 基本的には、他のことは一切伝えなくて大丈夫です。

 また、相続放棄を弁護士に依頼している場合、弁護士から債権者に対して連絡をしてもらうという方法もあります。

2 被相続人が賃貸物件に住んでいた場合の賃貸人からの連絡

 これはとてもよくあるケースである反面、非常に微妙な問題がたくさんあり、慎重な対応が必要です。

 まず、被相続人と賃貸人との間の賃貸借契約そのものにつきましては、相続人は解約はせず、賃料の未払い等を理由に、賃貸人側から一方的に解除してもらう(法定解除)必要があります。

 そして、もっとも悩ましい問題となるのが、被相続人の残置物の処理です。

 残置物とは、被相続人が家に置いていた家財道具や衣類等です。

 法的な観点だけでいえば、相続放棄を進めている相続人は、特に何もする必要はありません。

 むしろ、被相続人の財産を処分してしまうと、法定単純承認事由に該当する行為をしたとされ、相続放棄が認められなくなる可能性があります。

 相続放棄完了後は、初めから相続人でなかったことになりますので、賃貸人とは全く無関係な立場になります。

 そして、賃貸人は相続財産清算人の選任を申立てて、残置物の処分などを行うことになります。

 しかし、現実的には、良心の呵責もあったり、賃貸人から被相続人の住居を明け渡すよう再三の連絡を受け続けることがあるなど、完全に無視し切れない場合も少なくないです。

 そこで、財産的価値のない物(=いわゆるゴミなど、売却しても値段がつかず、むしろ処分費がかかるもの)は相続財産ではないと解釈し、処分してもよいと考える実務傾向もあります。

 ただし、裁判所はこれを明確に認めてはいないという点には注意が必要です。

 裁判所は、あくまでも形見分け程度の財産処分については法定単純承認事由に該当する行為としない旨を示していますが、残置物全般について明確に判断していません。

 そのため、残置物処分については、とても慎重に判断する必要があります。

3 被相続人の保証人になっていた場合

 相続人が被相続人の保証人となっていた場合で、保証人としての支払いを求められた場合は、支払っても法定単純承認事由に該当する行為とはなりません。

 例としては、被相続人の未払家賃や、入院費などがあります。

 これらは、あくまでも債権者と相続人の間の保証契約に基づく相続人固有の債務なので、相続財産ではないことが理由となります。

 支払う場合は、後々のトラブルを防ぐため、領収書等に保証債務の履行として支払った旨を記載してもらうとよいです。

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