相続放棄する際の相続財産等の扱いに関するQ&A

文責:弁護士 鳥光 翼

最終更新日:2024年04月23日

相続放棄する際の相続財産等の扱いに関するQ&A

Q相続財産の中に不動産がある場合どうすればよいでしょうか?

A

 相続財産の中に不動産があっても、まず、絶対に売却したり、(建物の場合)取り壊したりしないでください。

 もっとも、建物が汚損しないように手入れをしたり、土地の草木を刈ることなどは保存行為であるため問題ないと考えられます。

 これに対し、増改築(または減築)などをすることはできません。

 すべての相続人が相続放棄を終えると、最後の相続人は、相続財産清算人に相続財産を引き渡すまでの間、相続財産である不動産の管理責任を負う可能性があります。

 家庭裁判所に相続財産清算人選任の申立てを行い、相続財産清算人に不動産の処分をゆだねることで、完全に相続財産との関連性を断つことができます。

 

【参考条文】(民法)

(相続の放棄をした者による管理)

第九百四十条 相続の放棄をした者は、その放棄の時に相続財産に属する財産を現に占有しているときは、相続人又は第九百五十二条第一項の相続財産の清算人に対して当該財産を引き渡すまでの間、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産を保存しなければならない。

(第2項略)

 

参考リンク:e-Gov法令検索(民法)

Q被相続人の残置物はどうしたらよいですか?

A

 相続放棄をされる場合には、基本的には、相続人の残置物には一切手を付けないでください。

 相続財産の処分は相続放棄が認められなくなる法定単純承認事由に該当する行為であるため、残置物を廃棄することなども法定単純承認事由に該当する行為に該当する可能性があるためです。

 生ゴミなど、明らかに価値がなく放置しておくと汚損などを生じさせ、かえって相続財産の価値を下げてしまうものの処分は保存行為として認められる可能性はあります。

 また、形見分け程度の相続財産の取得は、相続財産の処分に該当しないという裁判例もあります。

Q遺産分割協議をしてしまいましたが相続放棄はできますか?

A

 原則としては、相続放棄することはできません。

 遺産分割協議は相続財産を取得する意思の現れとされる行為であり、法定単純承認事由に該当するため、相続放棄が認められなくなります。

 しかし、遺産分割協議後に、遺産分割協議前には認識しえなかった相続債務の存在が発覚した場合などにおいては、錯誤に基づいて遺産分割を取り消すことで、相続放棄が認められると考える余地はあります。

 

【参考条文】(民法)

(錯誤)

第九十五条 意思表示は、次に掲げる錯誤に基づくものであって、その錯誤が法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要なものであるときは、取り消すことができる。

一 意思表示に対応する意思を欠く錯誤

二 表意者が法律行為の基礎とした事情についてのその認識が真実に反する錯誤

2 前項第二号の規定による意思表示の取消しは、その事情が法律行為の基礎とされていることが表示されていたときに限り、することができる。

3 錯誤が表意者の重大な過失によるものであった場合には、次に掲げる場合を除き、第一項の規定による意思表示の取消しをすることができない。

一 相手方が表意者に錯誤があることを知り、又は重大な過失によって知らなかったとき。

二 相手方が表意者と同一の錯誤に陥っていたとき。

4 第一項の規定による意思表示の取消しは、善意でかつ過失がない第三者に対抗することができない。

 

参考リンク:e-Gov法令検索(民法)

Q亡くなった人の生命保険金は受け取っても良いのですか?

A

 契約者・被保険者が被相続人、受取人が相続人となっている生命保険金であれば受け取ることができます。

 生命保険金は、保険契約に従い、保険会社から直接相続人に支払われるものです。

 言い換えますと、上述のような生命保険金を請求する権利は相続人固有の権利であり、被相続人の権利ではないので、受け取っても法定単純承認事由に該当する行為には該当しません。

 ただし、保険会社に生命保険金の支払いを請求する際には、念のため相続人固有の権利であるかを確認しましょう。

Q亡くなった人の未支給年金は受け取っても良いのですか?

A

 未支給であった被相続人の年金を受け取る権利は、遺族固有の権利とされますので、受取っても相続放棄をすることができます。

 

【参考条文】(国民年金法)

(未支給年金)

第十九条 年金給付の受給権者が死亡した場合において、その死亡した者に支給すべき年金給付でまだその者に支給しなかつたものがあるときは、その者の配偶者、子、父母、孫、祖父母、兄弟姉妹又はこれらの者以外の三親等内の親族であつて、その者の死亡の当時その者と生計を同じくしていたものは、自己の名で、その未支給の年金の支給を請求することができる。

(第2項以下略)

 

参考リンク:e-Gov法令検索(国民年金法)

 

【参考条文】(厚生年金保険法)

(未支給の保険給付)

第三十七条 保険給付の受給権者が死亡した場合において、その死亡した者に支給すべき保険給付でまだその者に支給しなかつたものがあるときは、その者の配偶者、子、父母、孫、祖父母、兄弟姉妹又はこれらの者以外の三親等内の親族であつて、その者の死亡の当時その者と生計を同じくしていたものは、自己の名で、その未支給の保険給付の支給を請求することができる。

(第2項以下略)

 

参考リンク:e-Gov法令検索(厚生年金保険法)

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